俯瞰
広辞苑によれば、「俯瞰」とは「高いところから見下ろし眺めること」。この「俯瞰」はコーチングにおいて大事なスキルのひとつです。
クライアントさんが問題や課題を抱えている時、陥りがちなのが、近視眼的になってしまうことです。がんばっているからこそ、集中しているからこそ、自分の周りが半径1mくらしか見えなくなってしまう。この近視眼的な状態は、様々な意味合いで起こります。
例えば、ここ数週間物事が順調に進まなかったことに目を奪われて、1年前の状態と比べると実は状況は好転していて、それゆえに新しいチャレンジが生じているのだ、ということに気がつかなかったり(それを忘れてしまっていたり)。
特定の人との人間関係を改善しようと心がけるあまりに他の人との関係をおざなりにしてしまったり。
家族の誰かに対して不満を感じることにばかり注意が向いてしまって、その誰かの美点を忘れてしまったり。
などなど。
この「俯瞰」の風景について、コーチである私が感じ取ったことを「私には〜〜のように見えますが・・・」と投げかけることもあります。でも、比較的多いのは、クライアントさんに、「今、(〜のことばかりに意識が向いているような気がするのですが、)○×○×の視点から見てみると他に何が見えますか」とそのまんま聞いたり、「そもそもどうして今それをしているんでしょうか?」と目前にある問題や課題(と思っていること)の根っこを聞いてみたりして、クライアントさん自身に「俯瞰」の風景を見てもらいそれについて語ってもらうパターンです。
あと意外に頻度が高いのが、コーチングの流れの中でクライアントさんの視点や感じ方が少しシフトしたかな、とか、クライントさんが自分の思いをある程度語ったかな、私が感じたとき「今、この場所/時から、あらためて今日のテーマである課題/問題を振り返ってみると、どうですか?」と聞いてみることです。特定のコーチング・セッションそのものを階段のようなものに例えると、踊り場に来たところで、この15分なり30分なりの間に登ってきた階段を見下ろしてみることを促す感じとでも言えばいいでしょうか。
コーチである私本人が驚くほど、ほとんどの場合、「俯瞰」を使うと、クライアントさんにはセッションを開始したときとは違う風景が見えます。つまり、問題や課題と思っていたことの別の側面が見えたり、問題や課題そのものがなくなってしまったりします。もちろん、必ずしも問題が解決するとか、素敵な風景が見えるということでは、ありません。でも、必ず、多かれ少なかれ「違う風景」が見えるのです。もっと広い風景が。
俯瞰は鳥瞰とも言います。森の中で迷ってしまったらどこにどう歩いていいのか分からなくなってしまうけど、鳥になったつもりで森全体とその周りの風景を上から見下ろすことができれば、どちらに進めば良いのか、あるいはひょっとして今はしばらく森の中にじっとしていた方がいいのか、が、分かります。
トンネルの中が暗くて光が見えないときは、一体いつまで歩き続ければ良いのだろうか、一体本当に出口はあるのだろうか、という思いにとらわれますが、「俯瞰」できれば、トンネルには必ず出口あるという当たり前の風景が見えます。『トンネルを抜けたらそこは雪国だった・・・』じゃないですが、トンネルの先には全く違う風景が待っている可能性も、見えてきます。
でも一人で森の中で迷っていたり、トンネルの暗闇に絶望していると、そんな風景が見られなくなります。あたりまえのことが、見えなくなります。そこで、コーチは「ねえ、ねえ、足下ばっかり見てないで、半径1m以内ばっかり見てないで、ちょっと、上から景色を眺めてみない?」てな感じで、森やトンネルの中の風景しか見られなくなっているクライアントさんを誘います。
ただし、コーチが「ほら、俯瞰するとこんなだよ」と言って風景を見せるわけではありません。クライアントさん自身が、ある意味クライアントさんにしか見ることのできない俯瞰の風景を見るのです。だからクライアントさんにはどんな風景が見えたのか、クライアントさんが語ってくれるとき、コーチである私にはいつもなんからの「驚き」があって、時にすごく予想外だったり、私の想定を遥かに超えるすんごい風景のことが聞けたります。
鳥になった気分で、自分が「今いる場所(状況)」を俯瞰してみてみませんか。予想外の、そして予想以上の、風景が広がっているかもしれません。

