「チャレンジ」のスキルと「沈黙」のスキル〜クライアントさんが「真の課題」と向き合うために

*クライアントさんご本人の許可をいただいて、詳細を少し変えて記述しています。

先月、ある女性とのコーチング・セッションでのこと。諸般の都合で久しぶりのセッションとなった。彼女は向上心豊かなキャリア・ウーマンで、プロフェッショナルとしてのさらなる成長を求めて、自分が現在働いている国を出て、新しい環境で働くことを考えている。

前回のセッションでは「簡単じゃないと思うけど、新しい未知の場所で自分が今までやってきたことが通じるのかどうかトライしてみたいし、自分はきっとこれまでの実績を生かして新しい職場にも貢献できると思う」というようなことを言っていた。セッションを開始したころはここまで「〜したい」という気持ちが明確でなかったし(やたらと「〜すべき」を連発していた。笑)、仕事に関する自信についても言語化していなかったので、コーチング的には順調に進んだかな、と思っていた。

で直近のセッション。お互いの近況報告をしたあと、コーチングの本題に。彼女のお仕事の話しだ。「ここを出て・・・・難しいけど・・・試してみたい・・・できると思う・・・」と言う。

あれ?あれ、あれ?

私は「ねえ、ちょっと貴女にチャレンジしていいかな?」と前置きし、彼女のイエスを聞いた上で(=コーチングをする上での「チャレンジ」のスキル&相手すなわちクラインとの「許可」をとるスキル)、ちょっと思い切って投げてみた。

「前回のセッションの時と、全く同じこと言ってるって、気がついてる?一体何が起こっているんだろうか?」

このクライアントさんとは付き合いもまだ短いし、なんてったって、(声だけスカイプのセッションしかしたことないから)一度も会ったことなくて顔も知らないんだよね〜。だから、「こ、こんなこと言っちゃって、だ、大丈夫かな?」という不安な気持ちが若干あったのは確か。だけど、やっぱりここは彼女に対してチャレンジするべきだろうと思ったんす。コーチとしては。

短い沈黙。
「あああ〜〜〜〜・・・・・」長い嘆息。
そしてさらに長い長い沈黙。

私は待ちました〜〜〜。

いや、この「待つ」ってのが、コーチングを始めた当初はできなかった。(今も、母としてとか妻としてとか個人としてとなると、なかなかできないんだけど^^;;)
なんかまずいこと言ったかな?分かりにくかったかな?答えにくいのかな?てか的外れだった???なんてことをすかさずぐるぐると考えて不安になって沈黙を言葉で埋めがちだった。

今はコーチとしてなら、待てるようになったのであります(普段の生活にも生かそうよ、って感じなんだけどね。苦笑)。クライアントの沈黙の大切さが体験的に分かるようになった。

特に、上記のようにコーチがクライアントに対して「チャレンジ」したあとの沈黙。これ、今でも、ちょっとびびる〜。でも、ぐっと、踏みとどまるのだ〜!

これ、「沈黙のスキル」と呼んでいいくらい大事で習得が簡単じゃないもの、だと思うんだけど・・・(少なくとも私が学んだコーチングの体系ではそういう定義はないけれ。笑)。

で、結局出てきたのは、「家族」のことだった。

彼女は一人の母でもあって、今住んでいて働いている国を出てチャンスを求めるとなると、当然家族のことが大きな問題になる。って、これ、一見当たり前のことのように見えるんだけど、「仕事のこと」であれこれ考えていて彼女は、自分がなかなか次へのツテップへと向けた「決心」と「行動」ができないのは、家族のことゆえだ、と気がついていなかったのだ。

と言うよりは、家族と仕事のかねあいについてどうすればいいのということが彼女にとっての最大の課題である、ということに(分かっていたけど)きちんと向き合おうとしていなかった、というわけ。

私も彼女に伝えたし、彼女自身もこのセッションの中ではっきりと言語化するようになったんだけど、新しい環境での仕事における様々な困難については、「大丈夫、克服できる」んだよね。ノープロブレム。だって彼女、とても有能だってこと、つきあいが短くても良く分かるし、彼女自身もちゃんと自分の能力に自信を持っている、ってことも、明らか。

彼女の真の課題は実はそんなとこにはなかった。だけど、これ(家族との兼ね合い)はほんとに難しい問題だから、表面的な課題(=仕事のこと)にかこつけて、彼女は自分が本当に考えなければいけないことと向き合うことを避けていた。

てことが、よ〜やく、彼女、腑に落ちた。

いわく「あああ、こんな風に、自分の今の状況をとらえたことは今までなかった」。

働く女性が家族との狭間で悩む・・・って、あの、定番、じゃない?ってのは、私個人にっての常識であって、彼女にとっては、この問題の“顕在化”は、驚きだったのだ。

「家族とのバランスを考えないと」と彼女は続けた。
で、ここでなんか“くんくん臭った”ので、私はさらに聞いてみた。
「ねえ、このチャンスを手にしなかいで人生を終えると想像してみて。あなたは後悔する、しない?」
「後悔する。私は絶対に後悔する」彼女は即答した。そして断言した。

だよね。あなたは、自分を試したい。これまでのキャリを積んできた国を出て、新しい環境で、プロフェッショナルとして成長したい。ものすごく。そしてチャンスは目の前にある。
プロフェッショナルとしての自分を試さないままでいたら、生かしきれないままでいたら、一生、後悔する。

その強い想い、「家族とのバランスをとらないと」という彼女の言葉からくんくん臭った。

そして今度は笑いの混じった嘆息。
私も一緒に笑った。
だって、彼女の「やってみたい!」という強い想いだけじゃなくて、彼女がどんなに大きな課題に遭遇しているか、よく分かったから。

考えてみる。ちゃんと考えてみる。
仕事のこと「と」家族のことを。
と彼女は言った。

そして決めなければいけない、と彼女は続けた。
「決める」ことを決めなければいけない、と、彼女は言った。
この国を出て機会を求めると決めたなら、家族のことをではどうするか考える。
この国を出ずに今の職場に残ると決めたなら、ここで自分の能力を最大限発揮するためにはどうしたらいいのか考える。
そう言った。

このままの状態で、「この国を出て新しい環境で自分を試したい」とただ思い続けるのは、もうやめる。

どちらの道も、きっと正解。でも、どちらの道も、簡単じゃないよね。
この葛藤、個人的にすごく切実に感じられて、一度も会ったことのない彼女にすごく親近感を覚えてしまった私。コーチとしての「自己管理」をふっとばしておしゃべりしたくなってしまうのをぐっと抑えて・・・(でも、ちょっと、素に戻った瞬間もありましたが、それはそれで、自分で分かっている、ということが大事なのであ〜る)このあともセッションを続けた。

あらたな展開を経て、彼女に私が出した宿題は「毎日仕事のあと帰宅する前に自分だけの時間をとって散歩をすること」。

上記からどういうプロセスを経てこの宿題にたどりついたのか?は、また後日書いてみたいと思うけれど、「決める」ことを「決めなければいけない」と言い切った時のクライアントさんのエネルギー、とても力強くて、美しかった、ってことは、記述しておきたい。

「現実の問題」は実は何も解決していないんだけど、この力強くて美しいエネルギーに触れた時、この先どんな道を選んでも、彼女はきっと力強くて美しい人生を歩いていくんだろう、そう思えた。

「現実の問題」って、「本当の問題」と、必ずしも、同じじゃないんだよね。