何でも使います
私もここで書いてきているようにコーチングにはきちんとした「スキル」がありますが、かと言ってすごく特別なツールを必要をするわけではありません。
むしろ、日常の中にあるものを適宜利用することがあります。
たとえば窓の外にいる小鳥。
以下、実際の行ったセッションに基づく例です(クライアントさん本人の許可を得ています。また、プライバシー保護のために、詳細を少し変えています。)。
ある大事な面接の前で、そのクライアントさんは少しナーバスになっていました。当たり前のことですよね。その面接のことについてセッションをする中で、私はちょっと「ん?なんか、足が地についてないような・・・」という気がしたので、ちょっと聞いてみました。
「あの〜、その面接でね、ほんとは何をしたいと思ってるの?」
そしてクライアントさんから出てきた言葉。それは「面接官に、すごい、って思われたい」でした。
分かる、分かる。あ、この人すごいじゃん、って思われて、それで面接に受かりたいよね。
でも、これってちょっと危険です。それは、
ひとつには、そのクライアントさんは
自分がどうありたいか、自分が何をしたいか、じゃなくて、人にどう思われたいか、ということに気がいってしまっているから。
もうひとつには、
自分の等身大を見てもらうんじゃなくて、それよりも大きく見せたい、っていう気持ちが見え隠れするから
です。
こういう気持ちで大事な面接に望むと、上滑り、空回り、してしまいがちです。分かるんだ〜。ちなみになんで分かるかっていうと、私自身にそういう部分があってそれで失敗する、という経験があるからです^^;;
こういう時「今、〜〜の状態になってますね(キケンでは?)」と、直接言うのもアリですが、その時は、なんとなくクライアントさん自身が自分で「腑に落ちる」ことが大事かな〜、と思ったように思います。
それで私は特に計画も目的もなく「あのね、ちょっと窓の外を見てみて」と言いました。
特に計画も目的もない。そうなんです。ちょっとコワいけど、クライアントさんの力を信じきれる状態に私自身があると、こういうこともできちゃうんです。
“どんなものからでも”クライアントさん自身がヒントや答えを見つけられるはずだ、と思えるときに。
私は続けました。「何が見える?」
クライアントさんは言いました「鳥。」
正確な一言一句を記憶しているわけではないのですが、以後の会話はこんな風に続きました。
「鳥ってどんな存在?」
「自由、ただ飛んでる」
「鳥は誰かにすごいって思われようとして飛んでる?」
「違う。鳥はただ、飛んでるだけ。特に目的とかないと思う。ただ、飛んでるだけ」
ま、鳥はえさを探して飛んでいたのかもしれませんが、鳥が本当に何で飛んでいるかは、この際、全く重要ではありません。
なにかの糸口をつかんだ気がする・・・と感じたので、私は続けてこのように問いました。
「あなたが鳥なら、どんな風に面接を受ける?」
クライアントさんは答えました。
「ただ、受ける。誰かに見せるためじゃなくて、ただ、受けます。」
そのクライアントさんに、面接のあと面接がどうだったか聞いてみました。すると、「うまくいったかどうか分からないけど、少なくとも変に緊張しませんでした。なんかいまいち盛り上がらないなあ〜、って思う時もあったんですけど、慌てたり取り繕ったりしないで、冷静にいられました。」というようなことをおっしゃってました。
これ、たまたま「鳥」だっただけです。別に空でも木でも隣のビルでも、なんでもいいんです。そして「鳥」がその時、まさに何かをお告げを運んでクライアントさんの前に現れたわけでもないんです(笑)。
なんでもいいんです。やらわらかな心と若干の想像力と創造力があれば、どのような事象の中にもクライアントさんは自分の姿(それがなりたい姿であれ、なりたくない姿であれ、今の自分そのものであれ)を見ます。まさに、自分で自分を見ることができるんです。
そうすれば、今の自分の状態がどうなのか、そしてそれをより良い状態にするにはどうしたらいいのか、が、ほぼ自然に自分で分かってしまいます。
誰しもそういう力はありますが、ただ、慣れ・不慣れや得意・不得意はあるんですね。こういうセッションの経験のあるなしも関係します。ただ、私はそのクライアントさんはそういう力のある人だということを、ある程度の期間を通して知っていたので、私自身がアジェンダを持つことなく、ただ「窓の外を見てください。何が見えますか」と質問することができました。
そこにたまたま鳥がいた。何よりも、それがクライアントさんの目にとまり、心をとらえた。だから「鳥」を使うんです。
もちろん「はずす」(笑)こともありますよ。でも、はずさないことの方が実は多いです。そしてはずしたらはずしたで、そこから、思いがけないことが生まれたりします。
じゃあ、コーチは何もしないんじゃない?それに「はずしてもイイ」って、なんかテキト〜、なんて思う方もいるかもしれません。
はい、実際、コーチは何もしないのがいいんです。クライアントさんが自分自身で見て聞いて感じて考えることができる時間と場を提供できるなら、それがベスト。
そして私は人の心が読めるわけではないので「はずす」こともあるんです。
でもそこで「あ、そうじゃなくて、〜〜です」という反応がクライアントさんが出てくること、結構な確率であります。そうしたら、まさに「はずした」甲斐があるというもの。
そして私がクライアントさんのことを理解できるかどうかって実はそんなに重要じゃないんです。
重要なことは、クライアントさんがクライアントさん自身を理解できるようになること、なんです。
そのために、コーチは何でも使います。
「はずす」ことも厭いません。というか、そのことすらも、何かの手がかりになります。
ただ、普段の生活の中ではなかなかこういう会話にはならないですよね。
コーチングという枠組みの中だからこそ、ただの「鳥」が、クライアントさんが自分自身を理解するための大事なツールになる可能性が、うんと高まるのです。

